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映画『舞妓はレディ』
Original Soundtrack

音楽(作曲編曲):周防義和
作詞:周防正行、種ともこ
2014
PONYCANYON
PCCA-04079

COMMENT

ミュージカルシーンが10以上ある映画ということで、自分にとっての初めての試み。今までのミュージカル映画をいろいろ観て学んだが、それがそのまま通用するわけではないし、この作品の為のオリジナルな音楽的なコンセプトを考えた。

—ミュージカル曲—

メインテーマ「舞妓はレディ」
は言ってみれば歌謡ポップ。老若男女誰でも歌えるメロディを考慮した。ただアレンジは豪華に上質に飾り付けた。リズムも弦楽セクションで2ビート風で入り、サビはドラムに2拍4拍の単純なロックにならないラテン的パターンを叩いてもらった。
サビ直前のコードはalterdスケールで弦楽がスリリングなオブリガートを奏でる。サビ後のいわゆる大サビ部分は転調しているがスムースな移行だと思う。劇伴音楽にこのモチーフを散りばめたが、それはAメロを使用したり、Bメロだけをマリンバで奏したり、サビスタートの曲ありと各部分をまんべんなくヴァリエーションした。

エンディングロールのこの曲では劇中とは異なりロック風にリズム・セクションとブラスでシンプルなアレンジにした。このアレンジでも上白石萌音ちゃんの歌は8ビートに乗って問題なかった。コーラス編曲はJirafa。
このメインテーマに至るまでは数曲作曲していて「demo01」という試作曲もけっこう気に入っている。こちらのほうが明るくないがしっとり感や和な感じもちょいある。上白石萌音もdemoで歌っていてこの出来栄えもとても素晴らしいが世に出ていない幻のテイクになった。

竹中直人歌の「男衆の歌」
はレゲエを基調に2コーラス目は弦楽セクション伴奏で入りまたレゲエに戻る・・とにかく竹中さんの歌のニュアンスがスゴイ。種ともこの歌詞に最初から京都弁アクセントを記してもらい、そのニュアンスに忠実に作曲した。この曲ももうひとつの楽曲があり、それはスローの八分の六系の歌。

草刈民代歌の「この糸はなぜ赤なの?」
は出だしが日本の陰旋法スケールによる長唄演歌風とでも言うようなムードで始まり、弦の駆け上り下がりの早いパッセージの仕掛けをきっかけに歌謡ラテンの楽曲へ変身!する。この急激な変化は監督の構想によるもの。一気にファンタジーな色っぽいダンスシーンになる。パヤッパヤッパヤッという歌詞は僕が思いついたもの。

これは結果的に60年台末のザ・ピーナッツなどの洋風歌謡ラテンが自分のカラダにあって自然に現出したとしか思えない、自分でもこういう曲は書いたことなかったが草刈さんの歌も成りきっていてうまくいった。リズム・セクションにブラスや弦楽も入った豪華なアレンジ。
Demoでもう1曲作曲していてそちらはジャズ風な始まりかたをそている。

「私の夢」「これが恋?」
は同じ曲だがサビが少し異なる。和声進行としてはジョビンのボサノヴァにあるようなドミナント・モーション、半音進行を駆使した技巧的な作曲。それをバラードにした。メロディが同じ音に留まるのにコードは変わるという手法。
シンプルなメロディに反してコードは難しいが聴いている人にはやさしく聴こえるはず。

「私の夢」では津軽弁鹿児島弁が混じった不思議な方言の歌詞を萌音ちゃんがうま〜く気持ちよく歌った。映画では実は撮影時に同録で歌いOKにした貴重なテイク。「これが恋?」も弦楽セクションのレコーディングの際に萌音ちゃんにオケと一緒に歌ってもらった。

「京都盆地に雨が降る」
はこの映画中もっともミュージカルなムードの楽曲。この曲の作曲はほんとうに楽しかった。こういう散文詩的なセリフ的な歌詞に曲をつけるのはとても楽しいし、制約がないとも言える。萌音ちゃんはほんとうはちゃんと歌えるのに役柄上、わざととんでもない歌い方をしている。Scene#81でもう一度この曲を短く歌うシーンがあるが、そこはセンセ役の長谷川博己メインだったのでキーを半音上げた。後半のパートが女声にとってそうとう高い音域にいってしまったが萌音ちゃんは素晴らしいファルセット(裏声)で歌い上げた。

「Moonlight」
はスウィング風ブルースで始まってポップ曲の展開になり転調もする凝った楽曲作りをした。歌の大原櫻子はリハーサルでスタジオ入りして歌った時にすでに問題なく素晴らしかった。ブルースはポップ・ミュージックの源流でもあり自分にとっても高校時代ブルースバンドをやってたのでこういうジャズ風なブルースも全く自然に入っていける。このシーンはなんといっても磯田さんの美術セットが凄かった。パパイアさんの振付もオシャレ。

「ティ・アーモの鐘」
は歌う高嶋政宏の歌唱が聴きどころ。これはもしかしたら舞台系ミュージカルでもいけるかもしれないような雰囲気。歌詞も楽しい。京都知恩院でのロケは楽しかった。イタリアンなちょい悪オヤジの歌というコンセプトで作曲。Demoでは2曲作曲した。ボツったほうはもう少しカンツォーネに寄っていたかもしれない。

「夜の終わりに想う歌」
は実は映画『それでもボクはやってない』のサントラ収録曲で本編未使用。その後僕と歌のtomo the tomo で結成したtomo the tomo carpe diemでもリメイクしていたが、そのテイクをこの映画の主役オーディションでの課題曲にしていた。周防正行監督も気に入ってくれていたこの楽曲はなんと早々に脚本に組み込まれていた。
劇中では富司純子&上白石萌音のデュエットで心温まるシーンの歌となっている。作詞はtomo the tomo。
厳しかった富司さん扮する女将さんと春子が打ち解けていくシーンが和める。

「襟替え」
はシャッフルから8ビートへ変化する曲だが、イントロでは邦楽からの乗り換えというシーンに応えた不思議な雰囲気で始まる。田畑智子の歌も気持ちよくレコーディングした。
怖いお師匠さん役の中村久美のカワイイ歌う姿も印象的。楽しいシーン。

「一見さんお断り」
本来セリフやナレーションでいくような説明を歌で行ったような。歌詞の内容な現実的な京都お茶屋の解説となっている。長谷川博己&富司純子の歌。
間奏部分ではジャズ・ワルツに弦の低域がメロディを奏する。京都の雰囲気には和風な和声にジャズ・ワルツを乗せてみたい、ということを脚本段階で閃いていた。

劇伴奏音楽のほうは
基本的にミュージカル曲のモチーフをアレンジしているのが大部分。
メインテーマ「舞妓はレディ」「私の夢」「京都盆地・・」などのメロディを様々に編曲した。
「数字であそぼ」というクラリネットソロ曲はお茶屋の朝のシーンで春子とベテラン芸妓との会話に、セリフの間を縫うのを基本に作曲。クラリネットが即興風にメインテーマのひとくさりを奏しつつ構成されている。これは作曲するときに実際にテンポ設定せずに、即興でキーボードを弾きつつ作っていった。なので、実際にクラリネットのレコーディング時は、僕の弾いたタイミングを譜面にするのは難しかった。

歌曲アレンジでないのは例えば「声がでえへん」くらいだだろうか。この曲は言ってみればサスペンスではあるが、少し「和」なふんいきもあるような和声にした。
最後のほうの春子〜一春の謎が解決されるシーンでは、ここもセリフの間を縫うカタチで作曲した。
劇伴奏音楽がほぼしっとりした楽曲になったのは、この物語の進め方のヒントが隠されているのかもしれない。

AWORDS

第38回 山路ふみ子映画賞
文化賞(周防正行)/ 映画功労賞(富司純子)/ 新人女優賞(上白石萌音)
第38回 日本アカデミー賞
最優秀音楽賞(周防義和)/ 優秀助演女優賞(富司純子)/ 新人俳優賞(上白石萌音)
第69回 毎日映画コンクール 音楽賞(周防義和)
第10回 おおさかシネマフェスティバル 音楽賞(周防義和)
2014年 日本インターネット映画大賞 音楽賞(周防義和)/ 新人賞(上白石萌音)

この音楽によって4つの映画音楽賞を受賞。様々な方々からの絶大な評価にとてもとても光栄に思っています。この作品は歌曲が目立つので音楽家としては賞に有利な仕事だったかもしれないし、しかし逆にダメだったら悲惨なことになっただろう。歌はどれもポップな歌曲だが、現代の流行には全くかけ離れているとも言える。流行に関係なく評価されたことも嬉しきこと。

SONG LIST

01 舞妓はレディ [vo:上白石萌音/ chorus・編曲:Jirafa]
02 これが恋? [vo:上白石萌音]
03 一見さんお断り  [vo:長谷川博己 & 富司純子]
04 男衆の歌  [vo:竹中直人]
05 その糸はなぜ赤なの? [vo:草刈民代]
06 ティ・アーモの鐘 [vo:高嶋政宏]
07 Moonlight [vo:大原櫻子 妻夫木聡]
08 私の夢 [vo:上白石萌音]
09 京都盆地に雨が降る [vo:上白石萌音 & 長谷川博己]
10 夜の終わりに想う歌 [vo:上白石萌音 & 富司純子]
11 襟替え [vo:田畑智子/cho:上白石萌音 & 中村久美]
12 舞妓はレディ(end roll version) [vo:上白石萌音]
13 きついっしょ(作詞・作曲:種ともこ 編曲:種ともこ&菅原弘明) [vo:松井珠理奈 & 武藤十夢]
14 うちはかいらしい舞妓どす [vo:渡辺えり]
15 下八軒物語
16 私の夢(inst version)
17 ユキノヒ
18 センセオドロキ
19 八軒新橋
20 数字であそぼ
21 京都盆地・慕情組曲
22 からげのエスタンピ
23 声がでえへん
24 夢の続きは [編曲:Jirafa)
25 万寿楽
26 お見世出し
27 ハルコハコハル〜小春は舞妓
28 舞妓はレディ(chorus version)

STAFF & MUSICIAN

音楽produced by 和田亨
flute&piccolo : 高桑英世 oboe : 川村正明 clarinet : 山根公男 fagotto : 當真令子
tenor sax : ボブ・ザング trumpet : エリック・ミヤシロ  trombone : 中川英二郎
piano : 美野春樹 electric fretless bass : 泉尚也 bass : 御供信弘 drums : 佐治宣英 
latin percussions : 三沢泉 marimba,glocken & vibraphone : 高田みどり
strings : 大宮臨太郎グループ
guitars,ukulele,keyboards & programming : 周防義和
chorus : 内川佳子 Jirafa 種ともこ 周防義和 石川菜穂 戸邊叶恵 樋口和真 村地茜
宮本ミシェル正勝 平澤紗耶香 山口拓斗
ヴォイストレーナー:内川佳子 作曲assistant & 編曲: track24 : Jirafa

作曲編曲:周防義和  作詞:周防正行 種ともこ
作曲編曲(track 13)、音楽協力: 種ともこ 編曲(track 13): 種ともこ&菅原弘明

engineer(recorded & mixed by) : 小幡幹男
vocal recording : 長谷川巧
assistant engineer :中内茂治 込山拓哉 勝又紀彦 木村貴史
musicians coordinate : 松井香(kick’up)
mastering engineer : 小泉由香 at ORANGE
mastering coordinate : 小谷勝利 
recorded at 音響ハウス & zeulb 389 studio, 2014
masterd at onkio haus, may 2014


producer :
a & r :中村美乃里(ポニーキャニオン)大里和生(フジパシフィック音楽出版)
producer :吉田雅裕(フジパシフィック音楽出版)土本貴生(アルタミラピクチャーズ)
浅見貴人(ポニーキャニオン)
excutive producer : 桝井省志(アルタミラピクチャーズ)土屋健(フジテレビジョン)
柿崎譲志(フジパシフィック音楽出版)石川和雄 (ポニーキャニオン)
jacket design : 堀田弘明(アルタミラミュージック)
協力:キックアップ TSM渋谷 林祐介